第二話ノ2 恋、露と弾けるとは

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 書類を拾い上げるために床にひざをついた千鳥は、父に鞭打たれたときの傷が疼いて体を硬くした。 「どうしましたか。さっきから体の動きがおかしいと思っていたのですが、火傷以外にもけがをしているのではありませんか」  亜門の問いに千鳥はますます体を硬くした。  この痛みが私の人生……。  父から鞭で打ち据えられ、忌み子と罵られ、あやめと理子に暴力を振るわれた。体の痛みはそのまま心の奥深くに鋭い針のように突き刺さり抜く術もない。その痛みに苛まれながら、悲鳴すら上げることは許されない。  でも、父は暴力を振るいながら、一瞬、我に返り「千早……」と母の名を呼んだ。  きっと。  父の心の中にはまだ母がいて、あやめや理子に言われるまま千鳥を虐げ、折檻をするたびに、罪悪感で苦しんでいる……きっとそう。そうでなかったら、あのとき「千早……」と母の名を呼んだりはしなかったはず。  千鳥は精いっぱい笑顔を作って亜門を見た。 「こんな傷、大したことではないのです。ですから秘密にしてくださいませ……お願いです。このくらいの傷なら自分で手当できますもの……。それよりも大切な書類が……」
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