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書類を拾い上げていた千鳥の肩を亜門がぎゅっと握った。
「うっ……」
鈍い痛みが走り千鳥が書類を取り落とし、「失礼、背中を見せてください」と、止める間もなく亜門は部屋着を肩から滑り落とし、電灯の下、千鳥の背中が露わになった。
「これは……皮の鞭に打ち据えられた傷ではないか……加茂院家の当主は馬主として有名な方だが……まさか」
肩だけではない。腰にも、腕にも、太ももにまで鞭の痕があった。
千鳥は少女のような体つきで、女らしい丸みはなく透き通るような白い肌は、ギリシャ彫刻のようなすがすがしさで、その体に赤黒く盛り上がった鞭の痕が、痛々しく……亜門はふうっと息をついた。
「私は、これほどの折檻をしなくてはあなたを納得させられないほどの、意に染まない婚姻を押しつけたのですね……何とおわびしたらいいのか……」
「違います、違うのです。父が機嫌の悪いときにはこういうことがあるのです」
「機嫌が悪い?そんなことで鞭打つなど人の親の所業とは思えません」
「……お願いです。父を悪く思わないでください。きっと……心の中では罪悪感で苦しんでいるのです」
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