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「しかし……背中の傷は手当てが不十分で悪化しています。きっと夜汽車に乗ったりしたのがいけなかったのでしょう。分かりました、ではこうしましょう」
亜門はそっと千鳥を抱き上げた。
「何をなさるおつもりですか……それに重いでしょう?」
えっと、亜門が千鳥を抱き上げたまま目を見開いた。
「重いとはどういう意味ですか」
「だって、私はこのとおり人よりもずいぶん背が高くて……女学校のダンスのときには男役ばかりさせられていたんです。下ろしてください」
「あっはは……まさかそんなことを考えているとは思いもしませんでした」
「えっ?だって私は……」
「あなたを抱き上げるくらい何というほどのことはありません。このままダンスをしても構わないほどです」
もう一度、亜門は気持ちのいい笑い声を立てると、千鳥の顔をのぞき込んだ。
「あなたがダンスで男役をしていたのなら、女学生は仄かな恋心でも抱いていたのではありませんか」
「恋心だなんて!そんなことございませんわ!」
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