第二話ノ2 恋、露と弾けるとは

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「そうでしょうか?この家には若い女中が行儀見習いを兼ねて奉公に来ていますが、よくそういう話をしてはしゃいでいますよ。少女歌劇などに夢中になって仕事がおろそかになると秘書の阿久根は困っているようですが。私はあなたを見ていると、女中たちが男装の麗人に憧れる気持ちがよく分かりました」 「お戯れはやめてください……私をからかっておいでなのでしょう」  千鳥は身をよじって亜門の腕から逃れようとした。  幼い女の子のように抱き上げられ、胸は高鳴るばかりで、どんなに静まれ、静まれと念じても、ますます鼓動は早くなる。  亜門の胸はとても広く、その温もりが全身に伝わってくる。 「お願いです、下ろしてください」  懇願しながら、千鳥は亜門の逞しい腕に抱き上げられ、その力強さに身を委ねる心地よさに気付いて困惑した。 「怒らせるつもりはなかった。すみません……ただ、あなたがあまりにもかわいらしかったので、つい」 「つい、何ですか」  千鳥が視線を上げると、亜門が笑みを浮かべて見つめていた。 ……この人の笑顔は何てきれいなのだろう……
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