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「正面を向いてもらえますか」
亜門に言われて、千鳥は胸を見られる恥ずかしさで首を振った。
「自分で……できますので……」
「だめです。私を信じてください。けがのことは絶対に他人には秘密にします」
亜門の真剣な表情を見て、千鳥は前を隠していたブランケットを外した。
少女のような小さな胸、華奢な骨格とすらりと長い手足。
亜門が傷を消毒し、薬を塗っていくと、僅かに触れた指先に反応して、小さく声を上げる。
その姿に、亜門はごくりと生唾を飲み込んだ。
指一本触れないという取り引きと、この傷は亜門自身が強引に押し進めた加茂院家との婚姻が原因であるという事実。
「あなたのけがは、必ず治します」
包帯を巻き終わり部屋着を着せかけたとき、千鳥はぐったりとしていて、そのまま布団をかけてやると、すうっと穏やかな眠りに落ちた。
亜門はランプと電灯を消すと長椅子に横になった。
きょうは月が明るい。
まるで海の底のようにゆらゆらと青い光がたゆたう。
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