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これではまるで海で育んだ真珠を取り出すときのようではないか。
何年も母貝の胎内に抱かれ閉じこもっていた真珠。
開いてみるまでどのような姿形なのか分からない。
しかしその神秘が人を引きつけてやまないのだ。
抱き上げたとき、折れてしまいそうなほどの華奢な体と、身を固くして目を潤ませている千鳥をこのまま、すべて自分のものにしてしまいたいと思った。
そうできなかったのは、千鳥の体の折檻の痕跡を見たからだ。
加茂院家の当主は自分の娘を鞭で叩き、亜門のもとに追いやった。
その残酷な仕打ちに対する憤りと、原因を作ったのは間違いなく自分が真珠の販売ルートの拡大のために婚姻を急いだからだと……自責の念に絡め取られた。
長椅子から手を伸ばし、千鳥の額にかかっている髪をなでた。
髪は漆黒、猫っ毛といわれる髪質で柔らかく、つややか。
この髪に真珠の飾りを着けたらまるで美の女神ではないだろうか。
「私の奥方……ゆっくり眠ってください。あなたのことは私が全力でお守りします」
月明かりのもとで、千鳥は、初めての夜を安らかに眠り、その横顔を見ながら亜門も微笑を浮かべ眠りについていた。
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