第二話ノ3 目覚めは恥じらいとともに

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 昨夜、亜門と「家の者には婚姻関係が成立しているように振る舞ってほしい」と取り引きをした……そうだとすると、女中たちは千鳥と亜門が契りを結んだと信じているはずで、若い女性ばかりの女中たちにそう思われていることが恥ずかしく……そして、少しばかり心残りな感じがするのは……どうしてだろう。  女中たちは黒のワンピースに清潔な白いエプロンとハイカラなスタイルで礼儀正しくあいさつをした。 「あの……奥様、亜門様にコーヒーをいれなくちゃいけないのに、秘書の阿久根さんは朝から出かけてしまって困っているんです」  コーヒー豆をひくミルの使い方が分からずに困っていた様子で、千鳥は「よろしければお手伝いしましょうか」と声をかけた。 「でもやっぱり奥様になる方にそんなことはさせられないです」 「あっ。亜門様が起きてくるお時間よ。寝起きのコーヒーがなかったら困るわ」  千鳥はコーヒー豆が入っている麻袋からひとつかみを取り出して女中たちを見つめて微笑んだ。 「私は、コーヒーをいれるのが得意なんですよ」 「えっ。本当ですか?」
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