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「ええ、私の父も毎朝、寝起きのコーヒーがないと目覚めが悪い方ですのよ」
千鳥は手際よくガスをつけ、豆を煎りミルでひいて粉にして、ネルの袋にひき立てのコーヒーを入れてからお湯を注ぐと、ふっくらとドーム型に膨らんだ。
香ばしいコーヒーの匂いが立ち上る。
「どうやったらこんなにふっくら膨らむのですか」
「水をヤカンが踊るくらいの熱さまで沸騰させるのがコツなのです」
「奥様は……なんというか珍しい方ですね」
「ええっと……何のことでしょう?」
「その……好き好んで台所に立つご令嬢は、あまりいらっしゃらないのではないかと」
「あっ。出しゃばりすぎてしまいました……すみません」
「いいえ、うれしかったのです。下働きの者を気遣ってくださったことが」
千鳥は感謝され、思わず女中を見つめた。
「私は加茂院家の台所にも立っていましたし……それに、ここのようにガスや水道まであるととても便利だなって思ったんです。実家では煮炊きは竃か七輪、飲用水は遠く離れた井戸からくんできて水瓶にためておかなくてはならなかったですから」
「千鳥様が水くみまでなさってたなんて信じられません……」
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