第二話ノ3 目覚めは恥じらいとともに

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 女中たちがコーヒーをいれる千鳥の手元を見ようと集まってきて、そんなに大勢の人に囲まれたのは初めてのことで、どうしたらいいのかと皆の顔を見回すと興味津々……という顔をしている。 「奥様、コーヒーの入れ方を教えてくださいませ」  千鳥はポットのお湯が沸くとガスから下ろした。 「私も母から教えてもらったのをうろ覚えでやっているだけなので、本職の方のようにはできないと思うのですが……」  そう前置きしてコーヒーを入れはじめた。  加茂院家では千鳥が家事を担っていても、顧みてくれる人はいなくて、労われたこともない。コーヒーをいれることは母が元気なときに教えてくれ、それ以来ずっと続けていた。  それも、唯一、父と顔を合わせる機会になるからだった。  コーヒーをいれるのは手間がかかるし、父は早起きで目覚めとともにコーヒーが出てこないと不機嫌になる人だったから、あやめも、理子も自分が代わるとは言い出さなかったのも都合がよかった。 ……お父様、私に鞭を振り下ろしたとき、どうして、私のことを「千早」とお母様の名前で呼んだのかしら……
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