第二話ノ3 目覚めは恥じらいとともに

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 病床にあった母は離れに追いやられ、母屋を妾のあやめと、理子に乗っ取られてからも、愚痴を言うことなく穏やかに微笑んでいた。世を儚むこともなく、ただ季節の移ろいと、千鳥の成長を言祝いでくれた。  銀杏の実が付いたときに近隣の屋敷の人々を招いて銀杏拾いをする習慣は、加茂院家が屋敷を拝領する以前からの習慣だと教えてくれ、父は下々の者との接触を嫌がって姿を見せなかったが母は病床からでも、その賑やかな様子を心待ちにしていた。  父は母のことを忘れ去っていたとばかり思っていたのに……そうではなかった。 ……お父様も本心はお母様のことを気遣っておられたのかしら……  でもそれならどうして見舞いにも来ようとせず、母屋の切り盛りを妾のあやめに委ねたのだろうか。 ……男の方の本心というのは本当に分からないものだわ。それは亜門様も同じ。私の薬指に指輪をはめるのは自分だと言われたわ。それは本当にご自分の妻として迎える気持ちがあるということで……傷の手当てをしてくださったり優しくされると勘違いしてしまいそう。少しでも私のことを好きになってくれるのかもしれないって……
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