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千鳥は、心に浮かんでくるさまざまな出来事に思いを向けつつ、コーヒーがガラスのポットに滴る様子を見つめていた。
「あの、千鳥様。コーヒーカップはいかがいたしましょうか」
女中に声をかけられて、千鳥はわれに返った。
鍵付きの立派なキャビネットには美しい茶器が並んでいた。
金彩の繊細な模様で縁取られた豪奢なセット、白地に小花が描かれたかわいらしいものなど、フルセットが並んでいる。
「亜門様がお気に入りのものはどれですか」
「それでしたら、こちらの伊万里焼のものです」
それは白磁に藍で絵付けをしたシンプルなデザインだった。
青海波に鳥が飛び交い、南蛮船は帆を上げて航行していて、その目指す先には星が描かれていた。
豪華な茶器の中では素朴なもので、このカップを愛用している亜門の人柄が伝わってきて、千鳥は微笑んだ。
「ではこれを使いましょう」
「はいっ。今、すすぎます」
女中が水道の栓をひねるときれいな水が勢いよく出てきて千鳥は目を見開いた。
「まあ……栓をひねるだけで水が出てくるなんて。水道って便利なのですね」
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