第二話ノ3 目覚めは恥じらいとともに

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「亜門様は最新の物が大好きな方で、映写機も博多でいちばん初めに手に入れられて上映会をされましたし、ガスも水道も、お湯を沸かせるボイラーも貴賓館を建てるときに付けてくださったんです」 「来週には全室、廊下も隅々まで電気がつきますよ」 「電気?」 「ええ。夜でも本が読めたり裁縫もできるほど部屋が明るくなるんですって」 「まあ……夢みたい」  千鳥が子どものようにうっとりした表情になるのを見て女中たちが笑い崩れた。 「亜門様は私たちみたいな田舎から出てきた女中にも読み書きを覚えるようにと教師を招いてくださったり、お裁縫のお師匠様も呼んでくださるのです。電気がついたら暗い中で勉強しなくてもよくなるだろうとおっしゃってます」 「いい方なのですね、亜門様は」 「ええ。すばらしいご主人様です。この家の女中たちは働いているうちに読み書きやお裁縫、行儀作法も身につけられるからいい縁談が来るって博多では評判なんです。この女中の服も一人一人の体に合わせて仕立ててくださったんですよ」 「皆さん、よくお似合いです。お若い方が多いなと思っていたのですが、年頃になったらお嫁入りされているのですね」
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