目は口よりも物を食う

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「落ち着いて聞いて下さい。複数の検査を行いましたが、あなたの目からは一切の視力の存在を認めることが出来ませんでした」 正直なところ、胃がんの告知よりもショックであった。その後、診断結果表を渡されたのだが目の見えない私に読める筈がないために、眼科医は朗読を行った。 相変わらずのドイツ語を翻訳にかけて無理矢理日本語にしたような悪文ではあったが、視力の喪失原因は「全く以ての不明。ただ、原因があるとすれば長年の眼球の酷使」であることがわかった。 眼科医は続けた。 「一応、数日間入院していただいて出来るだけのことはします。これで改善が見られない場合は…… あの…… その……」 暗闇の中を生きる覚悟をしろと言うことか。ガンの告知とは違う問題で言い辛いのも仕方ない。私はどこにいるかも分からない眼科医に向かってニッコリと微笑んだ。 「なるようになっただけでしょう。気にしないで下さい」 すると、私の腹が「ぐー」と鳴った。そうか…… もう目が見えないのだから、目で本を食べることは出来ないのか…… 私は見えない天を仰ぎ見た、その目からは涙が溢れ出す。 「お腹が空いたなぁ」 もう、お腹が膨れることはない。私は暗闇の中でそれを嘆くことしか出来なかった。                             おわり
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