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アパートは古風な佇まいだった。いや、古風というよりは、百年近く放置された廃墟のようだ。時代遅れの作りに古びた壁。アパートそのものが実は幽霊ですと言われても不思議ではない。レコードから古い音楽が流れてきそうだ。
大家夫婦が出てきた。
「やあやあ、二人とも。立派になったねえ」
人の良さそうな夫婦だ。お化け屋敷には似つかわしくない。
「さあさあ、お上がりよ」
中では「マハゴニー市の興亡」のラジオドラマが流れていた。女優が「アラバマ・ソング」を歌う。
クッキーは甘くて美味しかった。ココアが冷えた体を温める。古き良きビッグ・アイの世界を体験している気分だ。
「で、隣りにいたおじいさんだけれど」
奥さんが切り出した。
「来月までに出ていってもらわないと」
「このアパート取り壊しが決まったからね」
二人を見ると、少し表情が曇っていた。特にジョージは泣きそうな顔をしていた。
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