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あれから、早乙女さんから連絡がない。
忙しいのかもしれない、それはわかっている。でも……
「久しぶりにぐっすり眠れたわ、ありがとう」
添い寝をした翌朝はいくぶん顔色も良くなっていたし。
「また連絡するわね」
確かにそう言っていた。
私からのメッセージに既読はついている。
時間を置いて、日にちを置いて、何度もメッセージを送っている。
なんで返事がないの?
お店に行ってみた。
店員さんに聞けば、オーナーはしばらく来ていないとのこと。
電話をかけてみる。
出ない。
もう一度。
出ない。
ふと顔を上げる、あぁ満月だ。
あれから一月近く経ったのか。
胸騒ぎがしてしょうがない。
こうなったら、出るまでかけ続けよう。
「うさちゃん?」
「やっと出た! 早乙女さん今どこですか?」
「……家」
「今から行きますよ、いいですよね?」
「うん」
「久しぶり」
見つめると、小さくそう言った早乙女さんは思ったよりやつれてはいなくて。
「元気……でしたか?」
「うん、おかげさまで開店の目処もたったわ」
「そうですか、良かったです」
そっか、私の早とちりか。でも、だったらなんで?
「心配してくれてたよね、ごめん」
「どうして返事くれなかったんですか?」
理由なく既読スルーする人にはどうしても思えなくて、だったらそれはもう、私とは連絡取りたくないという意思表示しかなくて。
「ごめんね」
「そんな……」
嫌われたってこと?
「泣かないで、ちゃんと話すから」
ゆったりしたソファに座る。
「あのね、実は私、女の人を好きになるの、いわゆるレズビアンね」
「そう……なんですね」
「うさちゃんのこと好きになっちゃったから、もう会わない方がいいと思ったの」
「えっ、なんで」
「ごめんね」
「どうして? 好きになったから会わないって、意味がわからない」
「うさちゃんには彼氏がいて、いずれ結婚して幸せになる。私のいる世界には近づかない方がいい」
私の幸せ?
どういうことだろう、早乙女さんに会わないことが私の幸せになるの?
「わかるでしょ」
私は首を横に振って叫ぶ。
「わからない、私だって早乙女さんのこと好きですよ」
「それは、同じ好きじゃないのよ」
半泣きの私に、優しく諭すようにゆっくりと話しかける。
「そんなの……」
わからないじゃないか。
今まで考えたことがなかっただけで。
早乙女さんのことを一人の女性として好きなのかどうかなんて。
「だったら、試してみる?」
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