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「お待たせ、早いね」  約束の時間まではまだ十分もあるのに、すでに待ち合わせ場所に秀吾は到着していた。 「うん、行こうか」   今日はお店の場所も名前も知らされていないから、私は秀吾の後をついて歩く。  結構名の知れたイタリアンレストラン、その個室に案内されたのだが。  そこにはすでに二人の人がいて、部屋を間違えたのかと思ったのだが。 「えっと、秀吾?」 「こっち、俺の両親」 「はい? あ、宇佐見京香と申します」  一応挨拶はしたが、どういうこと? 「やあどうも、どうぞかけてくださいね」  秀吾のお父さんが椅子を勧めてくれた。 「ちょっとどういうことなの?」  小声で秀吾を問いただせば「サプライズ」なんて言う。 「京香さん、誕生日なんですって? 今日は遠慮せず食べてね」  お母さんもニコニコしている。 「ありがとうございます」  食事はコースで出てくる。 「京香さん、アルコールは?」 「いえ、大丈夫です」  そんな気分じゃないし、飲める雰囲気でもないだろう。 「デザートは選べるんですって、誕生日だからやっぱりケーキが良いかしら?」 「あぁはい、それでお願いします」  美味しそうではあるけれど、甘くて胸焼けしそうな写真を見つめる。  料理は一品ずつ運ばれてくる。 「式は早い方がいいわよね」 「いや、じっくり選んだ方がいいんじゃないか」 「でも子供は早く作った方が絶対いいわよ、体力要るもの」 「籍だけ入れとけばいいじゃないか」  当の私たちを置いてけぼりにして両親は盛り上がっている。  曖昧な相槌を打ってやり過ごしていた。隣の秀吾も同じように「あぁ」とか「まぁ」とか言っていて、だんだん胃がムカムカしてきた。 「おい大丈夫か、京香。なんか顔色悪いぞ」 「ちょっと気分が悪い、お手洗い行ってきます」 「あらあら大丈夫かしら、もしかしてつわり?」 「えっ」 「えっ、違っ」  お母さんの一言で、みんなが私に注目して若干パニックになる。  秀吾までそんな風に見ないでよ。 「違います、ちょっと体調が悪いだけなんで」  早口で言って、トイレへ駆け込んだ。  きちんと生理は来ているから、それはない。だけど、そう思われるってだけで吐き気がする。  やっぱり無理だ。 「ごめんなさい、体調がすぐれないので今日は帰ります」  そう言って、バッグを持って部屋を出た。 「京香、待てよ。送ってくよ」 「いい、秀吾はご両親の相手しないと」 「でも」 「タクシーで帰るから」 「なぁ、怒ってるのか?」 「怒ってないよ、呆れてるだけ」 「なんで?」 「普通、何も言わずにいきなり親に合わせる?」 「うちの親は気にしないよ」 「そうじゃなくて」 「結婚の話、進めたかったんじゃないの?」 「もしそうだとしても……私まだプロポーズされてないよ?」 「え、いまさら?」  言葉を失った。  結婚を前提としているカップルは、プロポーズせずに結婚の話を進めるのが普通なのか? 私が間違っているのか?  もういい、一刻も早く帰りたい。 「じゃあね」  お店を出てタクシーを捕まえる。  運転手さんに伝えた目的地は、なぜか真紘さんのマンションだった。
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