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「どうする、泊まってく?」
「はい、迷惑じゃなければ」
「いいよ」
ベッドに入って眠ろうとするが、なかなか寝付けない。
「真紘さん」
「ん?」
「……抱いて欲しい」
「京香?」
「さっき、真紘さんが初恋の人の話してた時、私嫉妬してた。私といる時に他の人のことを思ってあんなに優しい顔して欲しくない、真紘さんを誰にも渡したくないって思った。私、真紘さんのこと……」
「京香、落ち着いて。今日はゆっくり寝た方がいいわ」
「どうして」
抱いてくれないの? もう好きじゃなくなったの?
「もう一度抱いてしまったら、もう戻れなくなる」
「いいよ、私を真紘さんの世界に連れてってよ」
必死だった、真紘さんを繋ぎ止めたくて。
「だめよ、今は彼氏くんと喧嘩して冷静じゃないでしょ。もう一度よく話し合ってごらん。彼だって京香のことを大切に思ってるんじゃないかな、私は京香が幸せになる選択をして欲しいの。でも覚えていて、何があっても私は京香を思ってる」
「真紘さん」
涙で真紘さんの顔が滲んで見える。
「大丈夫だから」
優しい声と背中をさする手の温もりを感じながら目を閉じた。
翌朝、早く起きて真紘さんの部屋を後にした。
珍しく真紘さんは起きて来なかった。
もしかしたら寝ているフリを続けていたのかもしれない。またはお薬の効果で熟睡しているのか。
秀吾に会いに行こうと思う。
ケジメをつけるために。
話がしたいと秀吾に連絡を取ったら、俺もそう思ってたと返事が来た。
秀吾の部屋へ行く。
「昨日は悪かったと思ってる、ごめん」
「うん、私も。ご両親は大丈夫だった?」
「ああ。今度は俺が京香の親に挨拶行くから」
「それは、ちょっと待って」
「あぁそっか。ちゃんと指輪も買ってからーー」
「だから待ってって」
「俺が京香を幸せにするから、結婚しよう」
俺がーーか。
やっぱりそうなんだよね。
「ごめんなさい」
「なに?」
「別れたい」
沈黙が続く。
秀吾は口を真一文字に結んでいた。
「私ね、」
「俺じゃダメなのか」
秀吾は、俺が幸せにすると言った。
真紘さんは、私が幸せになる選択をしろと言った。
「私の幸せは私が決める」
「……」
「ごめん、秀吾。私ーー」
「言わなくていい、相手のことなんて知りたくない」
「本当にごめん……今までありがとう」
何も言わず、動かない秀吾を残して部屋を出る。
その瞬間、クソっと小さく秀吾の声が聞こえた。
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