「かわいぃはぴこのかわいぃ日常」チャンネル

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『こんばんはー!はぴこです!ねえねえ、聞いてくださいよー。今日、友達にぃ彼ピの予定とかって確認するの?って聞かれたんだよねぇ。わたしはぁ、もちろん確認するよ?わたしはねぇ、彼ピが今家にいて何をしててどんな格好でってちゃんとわかってるんだぁ』 パソコンの3つのスクリーンにかわいい顔をした女性の姿が映る。もこもこの白い寝巻きを着た彼女の、間延びするような声には、時々雑音が混じり入る。 俺は股間を弄りながら、コメントを打つ。 「相変わらずうぜえなこの女。彼を縛る?ただのストーカーじゃねぇか、生きてる意味ねぇよ!」 打った文字が彼女の顔の上を流れていく。 『ああっ!またおにぎりさん、アンチコメントするぅ。もう、ダメだよ、わたし傷ついちゃう。』 「嘘つけよ、ゴミが。」 アンチコメをスルーせずひとつひとつ触れていく。そういう微妙な生真面目さが好きで嫌いだ。 『でねー、今日はぁその友達とカフェで喋ってたんだよぅ』 「それも嘘だな、お前は今日そのだらしない寝巻きでずっと家にいたよなぁ?」 この配信者は専ら最近の俺のターゲットだった。 言葉で殴って傷つくとかほざく姿に興奮する。アンチをするにはその人のことを知らなければならない。だから今日も配信者観察に明け暮れていた。 『な、何で知ってるの、え、あ、あ、違うんだよぉ〜今日はカフェに行ってたんだよぉ?ほら青山のぉ、あそこだって』 「化けの皮剥がれてるぞ。ま、元から化け物だけどな」 動揺している表情が画面にアップになる。その顔を見ていきり立つ。寒いのに体は熱い。 『さて、今日はねぇ、ある人のお宅にお邪魔することになってまーすぅ!』 「誰?」「どこ?」「自撮りっぽいからブレブレw」「酔うわ」 そんなコメントが素早く流れる。パッと画面は不透明な街を映す。 『しーっ夜なのでちょっと静かにしますねぇ。ここ周り見せられないからモザイクかかっちゃってるけど、家着いたらちゃんと映すからそれまで待っててね。』 「待つぞー」「待つかよ」 「とうとう企画立てられなくなったからゲスト呼びやがったww」 映る街が暗すぎる。これなら何も映さない方がマシだろう。 『今日のゲストの方はわたしと縁のある方なんですぅ。はぁ懐かしいぃ〜、この道何回も通ったなぁぁ』 「夜で暗くて見えないのに懐かしがれるかよ」 「こいつ案外適当だな」 「はぴこちゃんラブでゅふ」 『お、さて、家に到着しましたぁ!家に入るとこちょっと権利の関係で見せられないので、一旦配信止めますねえ?ごめんね』 「生配信してて途中で配信止めるやつ初めて見た」 「てかどこだよ」「マンション?誰?芸能人?」 コメント欄が虫のように沸いている。プツッという音が鳴り、配信が再開する。 『はい、お待たせしましたぁ。今家の中ですぅ、ちょっとサプライズしたいと思いますっ!』 「暗すぎ」「何も見えねぇ」 突然ヘッドホンの外からゴトっという音がした気がした。片耳を外して外の音を聞く。何も鳴っていないようだ。 「気のせいか」 俺は独りごちて、でも一応片耳は外しながら意識を配信に戻した。 画面の中では、配信者が何かにぶつかって声を上げていた。 『いたっなんかに当たった、大丈夫かな?気づかれてないかな?』 「結構響いたよ?」「誰だよ、早く言えよ、おせぇな」「周り見ろよだから売れねぇんだよ」 『もうおにぎりさん、売れないとか言わないでっ。じゃあ、一旦ここの電気つけたいと思いまーす。』 電気がつく。一瞬真っ白になり、現れた彼女の服にはところどころ赤黒い水玉模様ができていた。 彼女の後ろに見える様子は至って普通のリビング。今日の夕方までオレンジ色だった小さいソファが、赤色を吸収しているように見えた。 「えっこれって」 一瞬の戸惑い。その後に訪れるのは身震いと恐怖。血がこびりついた手でマイクを握る彼女の行方を、じっと見ながら、俺はヘッドホンを投げ捨てていた。 「待って、え、まさか」 『どう?みんなぁ、楽しんでるぅ?』 そのおっとりとした喋り方が逆に脅威を見せている。 『ここに階段があるね。じゃあ、2階にゲストはいるから、上がっていきますねぇ。今日のゲストはぁ、』 階段を上がる音が扉の向こうから聞こえてきた。一定のリズムで鳴るその音は生配信と呼応していた。 「おい、来るなぁ!来るなぁ!」 閉まっている扉。それに対して全裸でバットを構える俺の姿は、側から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。 手が震える。だんだん近づいてくる足音にさらに力む。投げ捨てたヘッドホンから軽い声が聞こえる。 『今日のゲストはぁ、こちらの方でーす!』 扉は開かれる。目の前にいたのは母の姿だった。 「なんだ、おかんかよ」 おやすみと言われるまで喋っていた母が目の前にいた。 途端に自分が裸なのを見て、安堵と恥辱が湧いてきた。これは叱られるだろうな、ととりあえずそそくさと服を取ろうとした時、口も開かない母がそのまま前に倒れ込んできた。 「えっおかん?おーい、どうした?だいじょう……」 とんとんと叩いていた自分の手を見ると赤黒く染まっていた。扉の方に目をやると、見慣れた彼女が満面の笑みで手を振っていた。 『おにぎりさんでーすっ!ごめんね、君はここまでっ!チャンネル登録よろしくねぇ、バイバーイっ!』
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