もし、早く帰っていれば

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 あの日から、もう十年という月日が流れた。私は、すっかり大人になったけれど今もあの日のお花見が忘れられない。もう一緒にお花見をすることができないあの人と出かけた、あのお花見の出来事が忘れられない。もし、あの時わがまま言っていなければ、この景色を一緒に眺めることができたのかもしれない。  今日もあの日と同じで桜祭りが行われている。そしてあの日と同じように多くの人が訪れている。普段は嫌な人混みもなんだか懐かしいもののように思えてくる。  もちろんあの日から変わってしまったこともたくさんある。ここら辺の桜並木は、十年前とは変わってしまった。あの日と同じ風景を眺めることはできない。桜の木が年をとって危ないからと伐採されて違う種類の桜の木が植えられた。  その桜の木に咲く花は、少し開花が早くて前の桜より濃いピンク色をしている。その色はとてもかわいらしいなと思っている。けれど、私は、その新しく植えられた桜の名前は知らない。  私が聞いた話によると、その種類の桜の木に植え替えをしているのは、あまり大きくならないからだそうだ。それでも、私はそれに小さいころの思い出のある前の桜の木をまた植えて欲しかったと思う。  あの遠目で見たら白にも見えるほどの淡い桜色の木々が並んでいる姿は、きれいだった。そして、その花びらは、川の中に積もると少し濃くなった。桜色のじゅうたんが敷かれた川の上を屋台船が流れてくるのもきれいだった。けれど、今は、あの頃のような光景は見ることができない。私は、それがなんだか寂しかった。  それでも端の方には、あの日と同じような桜の木々が残っている。大きくて立派な桜の木は、まだ満開とは言えない。けれど、その淡い色合いの桜の花は私にあの日のことを鮮明に思い出させる。
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