もし、早く帰っていれば

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 私は、ライトアップされた桜の木を何も言わずにあの人と二人で眺めていた。私は、正直桜の花よりも繋いでもらっている手の感触の方がよく記憶に残っている。  日が完全に沈んでから、大分時間が経った。ライトアップされた桜の花も幼い私にとって目新しさを失い始めていた。私のライトアップされた桜に対する関心が薄れたのに気付いたのかまたあの人は少しかがんで私と目を合わせた。  「もう満足したろ。帰ろうか」  「やだ」  「もう桜の花だってそんなに見てないだろう」  「いや。帰りたくない」  「もうおねえさんなんだから」 とあの人は言った。  私は、その言葉が聞きたくなかった。だから、言うことを聞きたくなくなった。  「いやだ」  「どうして嫌なの」  私は、理由が分からなくなっていた。それでも、帰りたくない一心であたりを見回した。そしたら、屋台が目に入った。  「あそこで売ってるラムネが飲みたい」  「わかった。あれ買ってあげるから、飲んだら帰ろうね」  「うん」 と言って屋台のところまで行った。  私はラムネを飲み終わると今度はわたあめだとかを欲しがって色々買ってもらった。  もういよいよお腹いっぱいで何も食べれないとなったら、また花が見たいと言って帰ろうとしなかった。あの人は優しかったから、結局雨が降り出すまで一緒にお花見に付き合ってくれた。あの人は、私が風邪をひかないように自分の上着で私を包んでくれた。  それから数日経ってから、母から「もうあの人と一緒に出掛けさせることはできない」と告げられた。どうしてなのかその理由は、思い出せない。けれど、きっとあの時私がわがまま言って長居しなければ見ることができたのではないかと思っている。
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