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草食男子とお兄ちゃん
それは俺が高校三年になる春休みのこと。
所属するバスケットボール部は、春休みでも学校に来てがっつり練習している。うちの部は三年生であっても夏まで引退しないので(なんなら冬のウィンターカップまで出る可能性もある)、三年生の俺も部活動に参加するのだ。
今年、うちのチームは結構強い、と思っている。去年は県大会どまりだったが、今年は二年生がめきめき成長していることもあって今年は先生達からも期待されているのだった。
高校生最後のバスケ。受験勉強もちゃんとしなければいけないが、並行して真剣に打ち込みたいと思っていた。それは後輩たちも同じだろう。
今年こそ全国制覇!なんて高い目標を掲げたのがつい先日のこと。後輩たちもやる気に満ち溢れていて、さあこれからだといった時期だったわけだが。
「高田先輩、ちょっといいですか!」
その日。練習前に着替えていると、俺はロッカーで後輩の城山に声をかけられたのだった。長身マッチョな俺(ポジションはセンター)である俺に対して、今年二年生になる城山は身長160cmぴったりしかない小柄な体格である。ポジションはポイントガード。女の子のように華奢で可愛い見た目ではあるが、非常に頭脳的で落ち着いたプレーをする選手だった。
あと、ものすごくスリーポイントが上手い。もう少しタッパがあったなら、シューティングガードを務めるのもありだったことだろう。
その彼がだ。何やらもじもじしながら封筒を差し出してくるのである。しかも、封筒にはハートのシールが貼ってあるような。
「こ、この手紙なんですけど……」
「おい。まさか今どきラブレターか?俺、男相手にそういう趣味ねえんだけども?」
「ちっがいますよ先輩の馬鹿!高田先輩じゃなくて、高田先輩の妹さんに渡して欲しいんですってば!清乃さんに!」
「あー……」
まさかのBL展開ではなかった、とちょっとだけほっとする俺。いや、そういう趣向を持つ人間を差別するわけではないのだが、見た目がちょっとかわいい城山相手だといろいろ洒落にならなかったというのもある。
それと、少女めいた見た目をしていても城山も男子高校生。下ネタを語るなり、アダルトサイトをこっそり見た話で揶揄うなりということは日常的にあったため、彼がそういう趣向の人間だとはまったく想像していなかったというのも大きい。
「……今時、ラブレターで女子に告白する男子っているか?」
俺は彼が差し出してきた封筒を見ながら思った。宛先には確かに“高田清乃様へ”と書いてはあるけれど。
「なんで今日俺にこれを渡してくんだよ。もうすぐ学校始まるんだから、それから渡せばいいじゃん。同じクラスになるかもしれねえんだし」
呆れてそう告げると、城山は大きな目をいっぱいに見開いて“それじゃ駄目なんです!”と言った。
「今日じゃなきゃ、意味がないんです……その手紙を渡すのは!」
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