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「あいつ、少なくともお前のことは友達としては結構気に入ってると思うんだよ。先輩の贔屓目も入ってはいるけどな。だからこそ、あいつはこれを真剣に受け取るべきか、友達として笑って流すべきかマジで悩むと思うし……真剣に受け取ったことでお前にドン引きされたら困ると思ったら、どう転んでも返事なんか言えないだろ。ぶっちゃけ、イエスもノーも言われずに距離置かれて、友達としての関係も終わりかねない。違うか」
「う……」
それは、嫌です。
彼は消え入りそうな声で言った。恐らく、本人も心のどこかで想像はしていたのだろう。
相手の気持ちがわからないような、冷たい男じゃない。ただ己に自信がなくて、逃げ道を用意してしまいたかっただけなのだと知っている。だからこそ。
清乃の兄として、城山の先輩として、俺も誠意を尽くすべきだと思ったのだ。
「そんなにびびってんのに告白したいと思ったのはどうしてだ?もうちょっとよく考えて見ろ」
ほら、と俺は彼に手紙を突っ返した。城山も、文句ひとつ言わずにそれを受け取る。
「本気であいつが好きなら、真正面からちゃんとぶつかりな。……あいつは確かに強い男が好きだとは言ってるけどな、単純に力が強い男だけが強者じゃねえってことは、俺も兄貴として十分教えてるつもりだ。あいつもそれがわからないほど馬鹿じゃねえ。……体が弱くても、心が強ければ、あいつだってちゃんとお前を認めるよ。その覚悟ができるまでその手紙はしまっておきな」
「……はい」
どうやら、城山も納得してくれたらしい。少し寂しそうに笑って、手紙をバッグの中にしまいこんだ。そして。
「……ありがとうございます、先輩。僕、恵まれてますね」
「よせやい」
ははは、と笑いながら彼の背中を叩いた。なんだか、弟がもう一人できた気分である。
なんとなく、妹の動向も探っておいてやろうかな、と考える。なんだかんだ、妹も妹で彼ことを気に入っているのは知っているのだ。それが恋愛感情かさておき。
なお。
「せせせせせせ先輩!」
帰り際。靴箱で靴を履き替えようとした城山が、真っ赤な顔で俺を呼んできた。
「き、清乃さんからお手紙があ!く、靴箱の中にいいい!こ、これは嘘でしょうか本当でしょうか!?」
「なんじゃとお!?」
そういえば、妹も今日は部活をやっている日だった。
そしてあの妹も結構馬鹿だった。
――お前ら似たもの同志かよお!
エイプリルフールの夕方、俺は玄関で頭を抱えることとなったのだった。
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