青空の向こう

1/11
前へ
/34ページ
次へ

青空の向こう

 僕にはわからなかった。  彼女が空を見上げる理由が。  「明日天気が晴れたら」  そう、彼女は話す。  飾り気のない笑顔で、海が見える場所まで行こうと言った。  瀬戸内海の海。  僕たちが住んでいる、街の丘の向こうへ。  「もし私が死んだら、骨は海に撒いてな?」  「縁起でもないこと言うなや」  「仮にの話や」  「仮にもクソもあらへん。そんな話聞きたないわ」  「心配してくれとるんや?」  「当たり前や!」  彼女はいつも気丈に振る舞ってた。  彼女らしいと言えば、彼女らしい。  子供の頃からだ。  どんなことにも前向きで、まっすぐ何かを追いかけて。  僕はいつも、彼女の背中を追いかけてた。  向こう見ずなその姿に惹かれ、彼女みたいになりたいと思った。  「甲子園」に行く。  その夢を思い描いたのは、夏の季節の下、サンダルを脱ぎ捨て、裸足で海岸を走る彼女の後ろを姿を見た時だった。  僕は彼女の後ろ姿に、雲ひとつない空の青さを見た。  
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加