青空の向こう

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 「私と出会った日のこと、覚えとる?」  「…ああ」  「確か、雨が降っとったよね。空は暗くて、びゅうびゅう風が吹いてて」  「そうやったな」  「あの日私は、雨が止むのを待ってた。待ちきれなくてな?無性に走りたい気がしたんや。丘の坂道を下りながら、そう思った。足を動かしたいと思った」  彼女の言葉は弱々しくて、それでいてどこか、明るかった。  あの日は「雨」が降っていた。  雲行きは怪しくて、空はどこまでも灰色で、——何かが、遠ざかっていく気がして。  友達と喧嘩した日。  学校を抜け出して、家に帰ろうとしていた矢先だった。  傘も差さずに空を見上げている女の子がいた。  彼女だった。  「つい最近のことのように感じるわ。もう20年も経つんやな…」  「そうやな」  「あの頃、あんたは泣き虫やったよな?喧嘩は弱いし、すーぐおばさんに泣きつくし」  「昔のことやろ」  「今だってそうやん?」  「は?どこが?」  「この前泣いとったやろ?私の目は誤魔化せんで」  「…気のせいや」  彼女は昔から変わってない。  バカみたいに真っ直ぐで、男みたいにあっさりしてて。  グローブとボールを持ってる女の子なんて、身近にはいなかった。  「プロ野球選手になる!」  なんて、そんな夢みたいな話を、恥ずかしがる様子もなく話す姿は、僕には不思議以外の何物でもなかった。  なれるはずがないと思ったんだ。  それはきっと、誰もがそう思うんじゃないかと思う。  別に変な意味じゃなくて、単純な話。
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