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「キャッチボールしよう」
確か、小学3年生の頃だった。
初めて会った僕に、彼女はそう言った。
雲がかかった空を指さして、
“雨が止んだら”
——そう言った。
止むはずがないと思った。
天気予報では、雨は明日の朝まで続く見込みだった。
海は荒れ、風は強くなる一方だった。
第一、キャッチボールなんて…
彼女の提案に乗り気じゃなかったのは、天気が悪いっていうだけが理由じゃなかった。
キャッチボールなんて、今までやったことはなかった。
ボールの投げ方もわからなかった。
グローブだって持ってない。
それに“気分”じゃなかった。
だから断ったんだ。
家に帰るからって、駅舎にある古臭い時計を見ながら。
「傘は?」
「持ってない」
「雨が止むのを待っとるんやろ?生憎、今日は止まんで?」
「もうちょっとしたら迎えにくるから」
「誰が?」
「お母さんが」
学校から抜け出したことを、母親には伝えていた。
駅にいるからと、ラインを送っていた。
学校から駆け足で駅まで来ていたが、さすがに家までは遠かった。
『すぐに迎えにいくから』
母親からの返信は、駅に着いてから数十分が経った頃だった。
母親が仕事中であることは知っていた。
だからしばらくは、ここで待つ気でいた。
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