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「暇なんやったら、付き合ってくれてもええやん」
決めつけたように話す彼女に、僕は嫌気が差していた。
僕たちは初対面だった。
後に彼女が同じ小学校に通っていたことを知ったけど、少なくともあの時は、お互い知らない者同士だった。
キャッチボールなんてできるような間柄じゃない。
友達でもなければ、知り合いでもない。
相手をするつもりはなかった。
だけど、彼女は僕の顔を覗き込みながら、「野球に興味はない?」と聞いてきた。
「雨が止んだら」って言ったくせに、ずいっとボールを近づけてきた。
意味がわからなかった。
「雨は止まないんでしょ?だったら…」
「止むかもしれんやん」
「はあ?」
「天気予報なんて当てにならん。問題は、止んで欲しいと思うかどうか、やろ?」
「えっと…」
「今日はどうしても確かめたい気分なんや。いまいちフォームがしっくりこんくてな?あんたは受けるだけでええから」
「受けるだけで…って?」
「ここら辺には練習用の壁がないんや。駅舎に向かって投げたらこの前怒られた。かといって、海に投げるわけにもいかんやろ?」
「…言ってる意味がわからないんだけど?」
「せやから、私の球を受けてくれって言ってんの。そんな難しく考えんな」
難しく考えてるわけでも、惚けてるつもりもなかった。
まるで僕に問題があるかのように、彼女は眉を顰めた。
練習用の壁?
この子は何を言ってるんだ?
頭に掠めるのは疑問ばかりだった。
左手にグローブを嵌めたまま、ボールをパシパシと遊ばせていた。
正直、「野球」もよく知らなかった。
キャッチボールくらいは知っていたけど、それ以外はからっきしで。
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