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思えば、あの時からだった。
いつも向こう見ずで、後先のことは考えなくて。
思ったことを口にして、他人の都合なんて顧みなくて。
僕はそんな彼女の強引さに、いつも巻き込まれていた。
1人で静かに本を読んでいる時も、バスに乗って、トボトボと通学路を歩いている時も。
ねえ
彼女の口癖は、いつもその一言から始まる。
他愛もない日常の風景の片隅で、何の気無しに呟くそのセリフが、いつからか、心地よく聞こえるようになった。
モノクロに塗りつぶされた空の色は、いつの間にか青く、——澄み渡っていた。
最初はいい気はしなかったんだ。
僕には僕のペースがある。
ずっと、そう思っていたから。
「あと何年…かな」
「何がや?」
「私が生きられるのが」
「何言うとんねん」
「だって先生が言うとったやろ?手術ではあかんかったって」
「そんなもん、なんかの間違いや」
「はは。あんたらしくないやん。いつもやったら、現実を見ろとかちっちゃいこと言うくせに」
神戸市内の病院に、僕たちはいた。
桜が咲き始めた、4月の上旬だった。
珍しく彼女が体の不調を訴え、一緒に病院に行ったんだ。
夜中の2時だった。
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