青空の向こう

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 「スキルス胃がんです」  医師から病名が告げられたとき、僕たちは婚約届を出して、まだ半月も経っていなかった。  何かの間違いだとは思った。  つい最近まで、普通に生活していた。  結婚生活を始めるために、2人でマンションの下見をして、どんな間取りがいいかを話し合っていた時期だった。  僕は母親の仕事を継ぎ、神戸市内へ新しい店を建てるために奔走していた。  母は海岸線沿いにあるガレージで、小さなバイク屋を営んでいた。  錆びれた白いトタン壁で覆われたガレージは、僕と彼女にとっての憩いの場だった。  とくに、子供の頃は。  「全然実感湧かんわ」  「何が?」  「だって、がんやで?びっくりしたわ」  彼女が強がっていないことは知っていた。  少なくとも、僕の前では他人事のように振る舞っていた。  まるで自分のことじゃないかのようだった。  先生に言われた時もそうだ。  悲しむ素振りもなく、不安がる様子もなかった。  ただ、驚いていた。  実感が持てていないようでもあった。  朝、目が覚めた時のような、——そんな夢見心地な目で、戸惑って。
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