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「過ぎたもんはもうしょうがない。こうなったら闘ってやろうやん」
「…闘うって言ったって」
「あんたがそんな顔してどうすんねん」
「そりゃこんな顔にもなるやろ…」
「情けな」
「…なあ、別の病院に行ってみんか??もしかしたら、診断が間違っとるかもしれんし…」
「市内で一番でかい病院なのにか?」
「でかかろーが小さかろうが関係ないやろ。俺やって昔ヤブ医者に引っかかったことあるし」
「あのオンボロ病院のことか?残念やけど、それとは話が違うで」
「せやけど…」
どうしても信じられなかった。
先生の言葉を疑うわけじゃなかった。
心のどこかではわかっていた。
だけどそれ以上に、整理できない気持ちがあった。
全部嘘だと思いたかった。
それは、今もだ。
「あんたいつも私に言うとったやろ。マウンドで困っても、逃げる場所なんてない。ミットを構えるから向かってこい、って」
「ああ?」
「困った時はストレート勝負。あんたが教えてくれたんやで?逃げずに、立ち向かうことを」
彼女は海を向いたまま、そう言った。
後ろ髪が靡いていた。
大人になってから伸びた、少しだけクセのある茶色い髪。
透き通ったうなじの白い肌が、持ち上がった髪の下に見えた。
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