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海斗の手が、宙に伸ばされる。
血濡れた白い指が、何かを掴もうとするように動く。
命の灯火が消えかけて。
それでもなお、海斗の『瞳』は見ていた。
そして。
力尽きる。
一人の人間の体から、すうっと大事な何かが抜けてゆく。
「……海斗。」
ナミを始めとする、遺体を回収しに来た仲間たちが彼の元へ到着した時。
彼らの目の前で海斗は倒れ臥していた。
血に濡れた白い手が、不自然に伸ばされ上を向いている。
ぐるりと輪に囲んだ仲間たちは、無言で泣いていた。囁き声はおろか、咳一つこの沈黙を邪魔しない。押し殺された嗚咽だけが、ここで起こった出来事を象徴していた。
じっと見守る彼らの影が、月に照らされ白々と浮かび上がる。
そして。
一枚、二枚……そして、三枚、四枚。
それはまるで、吸い寄せられるように。または……狙い澄ましたように。
どこからか舞い落ちた小さな桜の花びらが、彼の手のひらに乗った。
両手に二枚ずつ花びらを掴んだ彼の顔は、ただ眠っているようにしか、見えなかったという。
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