命を溢した手で桜を捕まえた

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「ああ、これが気になるのか?」 男が、笑いながら腰の刀を持ち上げた。不思議な紋様が絡みつき、異様な雰囲気の装飾がまるで星のように淡く光っている。 「察してるかもしれないが、これは『星ノ刀』。……しかも本物だよ。凄いだろ。」 「………。」 ————『星ノ刀』 この星の最高峰の技術を持つ刀鍛冶が打つとされる刀。 つまりこれは、宇宙から隕石のように降ってくる生命体たちに対抗するための武器の中でも、替えの効かない名刀のうちの一本だということだ。 『星ノ刀』は、この星の生命を餌食にしようとする宇宙生命と戦う『戦士』の中でも、指折りの者しか持つことはできない。数が極端に少ない、希少な武器だからだ。 そもそも、『戦士』という存在自体がとても少ない。 それだけ、宇宙から降ってくる生命体との戦いは難しいのだ。宇宙生命体の中には友好的な者も多いが、残虐で権謀に長けた者も同じ数だけ存在する。 命がいくつあっても足りないと言われる『前線』で戦い続ける『戦士』たちは、その職業についているというだけで精鋭中の精鋭だと見做される。本当に優秀なエリート集団なのだ。 「………あなたは、一体……」 「さあな。ただ、『未来が見える』っていう能力を持ってるだけの、しがない一般人間だよ。」 「………。」 しがない一般人間、というのはさすがに冗談だろう。しかしそれを差し置いても、少年が聞き逃すことのできないワードがあった。 『未来が見える』 その言葉を聞いて、少年は目を見開いた。 「未来……」 「ああ。証明してやろうか?」 桜の樹を見上げながら、男がニヤリと笑みを浮かべた。とん、と片足で地面のある一点を示す。 「一時間後に、ここ……ほれ、ちょうどこの場所に花びらが落ちる。」 「僕が邪魔するかもしれないよ?」 「それはない。その前に、この近くに鳥のふんが落ちてくる。それで気を逸らされ、きみは俺が指し示した場所を忘れる。」 「あ……」 少年が驚いたように男を見た。 その瞬間。 少年は目を見開き、慌てたように三歩後ろに下がった。 そして時間が経つことおよそ五秒。少年がさっき立っていた位置に、鳩のふんが落っこちてきた。 「………。」 気まずい沈黙が場を支配する。 黙りこくる少年に、男は「な?」と語りかけた。 「俺の言う通りになっただろう。」 嬉しそうな男に、少年が静かに問いかける。 「……僕も未来が見えるって、知ってたの?」 「そうだな。大体知ってた。」 「あなたと会った時、あなた周辺の未来が全然見えなくて変だなって思ったんだ。その理由……やっとわかったよ。あなたも予知能力者だからだったんだ。」
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