命を溢した手で桜を捕まえた

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(……ギリギリ、間に合ったな。) ぼんやりした意識の中、『海斗』はそんなことを思った。 (もし“ナミ”の離脱が二秒遅れてたら……相当マズかった。全部詰むところだった。) 胸の中で呟いて、息を吐く。 空を突き抜けた宇宙の景色が目に入る。 全ての始まりと終わりを内包した世界を見上げて、うっすらと微笑む。 夜の闇に煌めく星が、綺麗だった。 * 『取捨選択』 それが、海斗が生きてきた世界の原理だった。 なぜなら、海斗には未来を見通す能力が備わっていたから。 未来とは、変えることのできない運命ではない。 未来を知るものが行動を起こすことで、いかようにも未来は変化する。 ……だから。 誰を助け、誰を捨てるのか。 どの結果を選び、どの結果を無視するのか。 海斗はいつも選んできた。 ……海斗が干渉して得た未来。それは常に、海斗自身が望んできた未来。 親友の命を切り捨てたこともあった。 それは、結果的に、より多くの一般人を守るため。 師匠を暴言で傷つけたこともあった。 それは、結果的に、より多くの優秀な戦士を戦士隊へ引き込むため。 自分の抱える重すぎる責任に潰れそうになったこともあったが、しかし潰れるわけにはいかなかった。 『今俺が死んだら、これからもっとたくさんの人が死ぬから』 海斗はことあるごとに、周囲に対してこんな風に語った。 『俺は生きて……せいぜい皺くちゃのおじいちゃんになるまで、ここで俺の使命を果たすとするさ。』……と。 海斗をよく知らない人間の中には、“いつか海斗が狂って自殺するんじゃないか”と不安がる者もいたらしい。 しかし大部分の仲間は、海斗を信頼していた。 海斗は約束を破らない。 それを、みなが知っていた。 なぜなら、海斗が生きて他者を救い続けること……それこそが、今まで切り捨てた人々へのせめてもの償いなのだから。 彼は生き汚いほどに生きて、その優しさを世界のために使い続ける。 みなが、そう信じていた。 * (……結局、守れなかったな。) 海斗は今、己が血溜まりに倒れ臥す瞬間を待っていた。 そういう未来が、見えている。 きっちり五秒後。 海斗は無抵抗の状態を狙い撃ちされ致命傷を負うだろう。仲間がここに辿り着く頃には、すでに手遅れ。海斗の命はこの場で尽きる。 ……どうしてこんなことになってしまったのか。 それは至極、簡単な話だった。
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