命を溢した手で桜を捕まえた

7/12
前へ
/12ページ
次へ
————全身が硬直する。 ……ああ、これも、見えていたことだった。 海斗は胸中でふっとため息を吐いた。 相棒の『ナミ』を逃した時点で、ここに残った自分は敵の罠にかかる。……まあ、『星ノ刀』を奪われないように立ち回れただけよかったのだろう。最悪の結果は回避したし、何より『ナミ』が死なずに済むのだから万々歳と言える。 海斗は闇に呑まれたような虚空をひたすらに眺め続ける。 ————伸し掛かる重圧が急激に増し、重しを乗せられたような圧が全身を圧迫する。 これも、読み通り。 指一本動かすどころか、息もできない完全な筋肉硬直が海斗を襲う。 ぐ、と喉を詰まらせる海斗の前に、燃える隕石の如く光に包まれた生命体たちの群れが現れた。 【……こっちを殺せるとは、予想外。】 【でも、ラッキーだったな。】 【うんうん。】 くぐもった奇妙な反響音の声が、海斗の耳に届く。 倒すべき生命体たちが、そこに群れていた。 (弱いな。) 見ればわかる。一人一人はそこまで強くない。むしろ、弱い。 海斗の体さえ動けば、一秒で木っ端微塵にできそうな雑魚もかなり多く、素手で暴れるだけで全滅を狙えるかもしれない。 ……しかし、こんなものは全て無意味な仮定に過ぎない。 『敵の動きを停止させる』という能力にかかった以上、あらゆる抵抗は無駄になる。いくら海斗が未来を予知する能力を持ち、無敵の剣技術を備えていたとしても。……全能でない海斗では、もう何もできない。 悔しいとは、思わなかった。 辛いとか、怖いとか、そういった感情は微塵も湧かなかった。 ……これは全て、他人事のような未来予知の中で、映画鑑賞会みたいに見ていた光景。海斗にとって、現実とは、未来とは、どうにもならないほどに淡白なものになっていた。 彼らの構える武器が、一斉にこちらへ向けられる。 あ、っと思った時には、海斗の心臓が射抜かれていた。 同時に、硬直が解ける。 自らの血溜まりの中に倒れ伏し、海斗はうすら笑いを浮かべた。 (……予知した通りだ。) 朦朧とした海斗の、青い瞳。 それは彷徨う迷子のように夜空を漂い……そして、ピタリと焦点が定まる。 ————彼の目は、夜桜を映していた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加