これはもう、恋なのかもしれない。

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 両手を後ろについて、空を見上げたと思ったら、長谷部くんが言った。  木の葉っぱの影から、キラキラと反射する太陽の光に目を細めている。  あたしはすぐに伸ばしていた足を引っ込めた。長谷部くんの方へ向くと、きちんと体育座りをして話を聞く姿勢を作る。  「俺は校長かよ? そんな姿勢正さなくてもいーって。真面目だなぁ」  あたしの行動に、長谷部くんは降り注ぐ木漏れ日の様にキラキラと笑顔で笑った。  普段教室で見る顔とは別人の様に爽やかで、人懐っこい様に笑う。そんな笑顔に、思わず見とれてしまっていたあたしは、ハッと気がついて目を逸らした。縮め込んだ足を、少しだけ伸ばす。 「さっきの、聞いてたんでしょ?」  長谷部くんの一言に、あたしはマズイと思いながら顔を上げた。  やっぱり、怒られる……⁉︎ 「怒んないって。顔に出過ぎだから」  あたしの顔を見るなり、吹き出して笑う長谷部くん。その反応にとりあえずホッとする。  また、空を見上げた長谷部くんの横顔があまりにも切なくて、寂しそうで、あたしは胸の奥がギューッと、苦しくなった。 「あいつと付き合い始めた頃にさ、夏になったら花火大会絶対に一緒に行こうなって約束してたんだよ」  あいつって言うのは、さっき長谷部くんの事をフッた女の子のことだと思う。  その子が誰なのかは、姿が見えなかったし、知っている声でもなかったから、あたしには誰なのか分からない。だけど、目の前で話す長谷部くんが、その子の事をきっと、とても好きだったんだろうなっていうのは、何故か伝わってくる。  柔らかい表情をする横顔がそう感じさせた。 「最近さ、なんか変だなとは思ってたんだ。別の男と一緒に歩いてるとこ何回か見かけてたし、こうなる日が来るだろうなって薄々感じてた。せめて、約束だけは果たしてくれるかな、なんて、期待してさ」  どんどん辛そうな表情に変わっていく長谷部くんに、あたしは戸惑う。頭を下げて自分の影を見つめて、長谷部くんはしばし黙ってしまった。
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