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「もぉっ! そー言うとこが嫌なの! 花火なんてあたしじゃなくったって、誰でも良いんでしょ⁉︎ じゃあね、さよならっ」
「あ、ちょっと! ……はぁー、なんなんだよ、あいつ」
ああ。ついに彼女が走って行ってしまったのか……。砂を蹴る足音が遠くなっていく。
かわいそうに。あんまり大事にしてこなかったのかな、彼女の事。フラれて当然か。今の態度見てたら分かるかも。残念でしたね。
一部始終を聞いて二人のことを完結させると、ようやく水筒の蓋を勢いよくポンっと開けて、キンキンに冷えた麦茶を喉に流し込んだ。
あー、美味しい。生き返るとはこの事だ。
「あれ? お前、同じクラスの奴だよね?」
突如、降り注いできた声にあたしは頭上を見上げた。そこには、見覚えのある顔。驚きすぎて声も出ない。
「ほら、たしか〜、さぎ、ぬま? ん? ぬまさぎ?」
「……沼崎、です」
「おお、そうそう! それっ」
それって……
「俺、長谷部 愛都」
ニッと歯を見せて笑う彼のことを、あたしは知っている。
顔を見た瞬間に名前がすぐに浮かんだ。クラスの中で良い意味でも、悪い意味でも最も目立つ存在。知らない人なんて居ないと思う。
そうか、今フラれていた態度のおかしい彼氏は、長谷部くんだったのか。
あたしはそれを知って、深く納得してしまった。
「何してんの? こんなとこで。暑いのに」
「え⁉︎ あー……」
まさか、「今の一部始終をこっそり聞き耳立てて聞いていました」なんて、冗談でも言えない。
「まぁ、別にいっか。そんな事」
あたしが黙り込んでいると、そう言って日陰に長谷部くんも座り込んだ。
そうだね、あたしの行動なんて知った所で、長谷部くんにとっては何にもならないでしょうし。興味もないでしょうから。
「沼崎って勉強できるよね」
「……え」
「ほら、いつも学年トップじゃん? 知ってるよ俺」
得意げにこちらを向く長谷部くんに、まさかあたしの存在を知ってもらえていたなんてと、ほんの少しだけ嬉しくなってしまう。
「それは……どうも」
照れて俯くと、小さなため息が聞こえてきた。
「ちょっとだけさ、話聞いてくんない?」
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