空腹を満たすもの

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 アイツはオレを殺すために登山に誘って来たのか? オレはそれほどアイツに恨まれていたのか?  だったら、なぜ謝った? そして、「まだ死にたくない」という言葉の意味はなんだ?  突然降って湧いた疑問に思考を巡らせていたオレは、無意識に身体を起こし布団から出ようとしていた。 「――――⁉」  暗闇の中から感じた視線。ゾワッと全身に鳥肌が立つ感覚に、思わずその視線の方に目を向けた。そこには、小屋の入口に固まって座る子供たちの姿があった。 「もう……たべてもいい?」  突然聞こえてきた声に、全身が竦み上がった。  この声は、子供たちの方から聞こえてきた。いつも無言で微笑むだけだった子供たちから発せられた初めての声。それは、幼い子供の口から出たとは思えないほど、ひどく濁った重い声だった。 「まえのにく……くさかった……」 「……あれ……いや……」 「あれ、しょぶん……した。もう、ない」 「おいしそうに……くってた……」 「こっちのにくの……はやく、たべたい」 「……これ、おいしそう」  子供たちは口々に言う。そして、愉快そうに身体を揺らし、ゲラゲラと笑う。  恐怖で身動きできないオレの目の前で、子供たちは変貌していく。  不気味な感情を剥き出し笑う子供たち。揺れる身体はボロボロと崩れ、壊れた幼い子供の殻から得体の知れなものが出てくる。  得体の知れないものは興奮した口振りで連呼する。 「おいしそう、おいしそう、おいしそう……」 「たべたい、たべたい、たべたい……」  暗闇に浮かぶ淀んだ赤黒い目がオレを見つめる……。 「…………おなか、すいたよぉ……」 【終わり】
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