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……お腹がすいた。
もう、何日食べていないだろう。
空腹に耐え兼ねた体は動くことを拒み、痛むはずの足の怪我も痛みを感じなくなっている。
倒れたままの身体を起こすどころか、腕を上げるのも僅かな動作も重く感じる倦怠感。意識もぼんやりとし始めてくると、頭の中に『死』という言葉がよぎるようになってくる。それなのに、時おり眠り落ちるように途切れる意識には妙な心地よさを感じ、不思議と生命の危機は感じない。そんな矛盾した思考が緩く広がっていく。
数日前、オレは友人に登山に誘われた。登山なんてしたことのないので一度は断ったのだが、友人の誘いはしつこく、結局こちらが折れる形になってしまった。まあ、無趣味で休日もほとんどダラダラと過ごすだけだし、少しぐらい身体を動かすのもいいかなとも思った。それに、最近は運動不足も相まって体重が増えてきていたのも気になったしな。
そんな軽い気持ちで迎えた登山当日。友人に連れて来られたのは、田舎にある名前も聞いたことのない山だった。
現地に到着して、まず閑散とした雰囲気に不安を覚えた。オレのイメージでは、登山道入口のある麓には駐車スペースや休憩所みたいな小屋があったりする感じだった。けど、ここにはそのどちらもなかった。それどころか、本当に登れる山なのかと疑いたくなるぐらい草木が雑多に生え伸びていて、山に入る道さえよく分からない状態だった。
ここで引き返していれば、こんなことにはならなかっただろう。でもオレは、登山経験者である友人の妙にそわそわとした態度から、ここが隠れた名所なのだろうと変な期待を抱いてしまい、登山を決行してしまった。
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