空腹を満たすもの

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 最初の数日、足の痛みに耐えながら、常に耳をすましていた。けれども、誰の声も聞こえなかった。覚えている限り、オレは友人の背後にピッタリとついて歩いていたつもりだ。それも、定期的に声をかけながら。だから、オレが落ちた場所くらいすぐに分かりそうなのに、誰も探しに来ない。もしかしたら場所が悪くて、道からかなり離れた場所に落ちたのかもしれない。でも、こんなに長く見つけられないなんてあるのか?  孤独が不安を募らせるなか、オレはより大きな不安に駆られていた。  それは、周囲に広がる気配だ。  猪や熊といった命に関わる動物の気配に怯えているんじゃない。その逆だ。なんの気配も感じないのだ。捜索する人の気配どころか、山なら普通はいる小動物の気配さえ感じない。よく漫画やなんかで草木の揺れに驚くが、風で揺れただけだったと安堵する場面があるけど、それさえもない。草木一つ物音をたてない静寂が広がっている。  不安がもたらすものなのか、この場所になにか異様な雰囲気が立ち込めていた。けれども、動けない身体では逃げ出す術もない。オレは、何も存在しない気配に怯えながら、ただひたすら救助を待った。  そんな状況のなか、食料は三日目で尽きた。元々、数時間程度の予定だったんだ。食料も軽い携帯食くらいしか持ってきていなかった。最後のひとかけになったチョコをゆっくりと食べ、これからに不安を覚えた。でも、この時はまだ救出への希望は残ったままだった。  そして、さらに数日。とうとう身体が動かなくなりはじめた。こうなると、さすがに最悪の結末も脳裏によぎるようになってきた。 「オレ……このまま死ぬのかな……」  恐怖で感情は暗く沈み、無意識にそれを口に出してしまう。それなのに、なぜかそれを打ち消すような不思議な浮遊感もあった。相反する感情の波に揺られながら、思考はしだいに眠り落ちるように消えてゆく。その心地よさに全てを委ね、オレは静かに目を閉じた……。
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