空腹を満たすもの

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 それからさらに数日経ち、味のない汁だけだった食事に固形物が混ざるようになってきた。  具材は細かく切ったゴボウのような物に、何かの肉のような物。ゴボウのような物はまあ食べられる味だったけど、肉の方は微妙だった。たぶん、猪か鹿なんだろうけど匂いに癖があり、食感も筋張っていてお世辞にも美味しいとは言えなかった。とはいえ、久しぶりに味わう『食事』という感覚に、そんなことは些細なものになっていった。 「ありがとう。美味しいよ」  そうお礼を言うと、食事を持ってきてくれた男の子は、いつものように無言でにっこりと笑っていた。  数日間、子供たちから食事を与えられ、少しずつだが体力が戻ってきた。起き上がっても、ふらつくことがなくなり、足の痛みも完全に引いた。激痛だったから骨折かと思っていたけど、どうやら捻挫だったみたいだ。歩いてみても、支障を感じることはなかった。  こうやって体力の回復を実感すると、同時に自分が生きている実感も強まる。すると、それに合わせて食欲も旺盛になってくる。それを察してか、出される食事も変化していった。メニュー自体は変わらず味気ない汁物なんだけど、具材である肉の量が俄然増えた。やっぱり食感や匂いが気になるんだけど、まだ自分の中では何かを食べられるという感動の方が勝っていた。オレは文句一つ言わず、出された物を喜んで平らげていた。  腹が満たされる日が続いてくると、精神的にも余裕が生まれてくる。  遭難して数週間。やっとオレの中に、自力で下山しようという意欲が湧きはじめた。なので、早速聞いてみた。 「ねえ、キミたちはここがどこか分かる? 地図とかないかな?」
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