「     」上巻

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 暗く湿った室内に響き渡る雨の雫が滴り落ちる音。ガラス張りの天井から見える、一面灰色に染まった雨上がりのせかい。雨の音も、蝉の鳴き声も聞こえない、 静寂。 そこに重なるように響きだした、不協和音と、和音の重なり。ぽーんと静かに奏でられるそのピアノの音は、どこか、不気味さに入り混じって、惹きつけられるような輝きも感じさせた。静かに増えてゆくピアノの音に合わせ、ピアノの上で踊る指の速さと、人数も増えてゆく。でも、ただ、静かに、静かに踊っていた。  ツタに覆われ、扉もはずれ、廃墟となったその家は森の中にポツンと建っていた。今日は真夏日で相当暑いはずなのに、その家があるこの森に入ってから、その暑さは忽然と姿を消してしまっていた。幻想的な、とてもこの世の物とは思えない森を抜け、ジブリにでも出てきそうな、古民家に着く。家具が散らかり、床が所々抜けている。ガラスの扉は所々ついているくらいで、中が丸見え。もう、昔は、その扉でそこに住む人々を守っていたであろう本来の姿も、わからない。それでもまだ、家としてのぬくもりは、残っているように感じる。  
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