「     」上巻

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「私の名前は夏樹。名前、何か教えてくれない??」 〚…、僕は由(ゆい)。それより、何でこんな山奥に…。〛 「あ、そうだよね。ごめんごめん。実は、探検して遊んでたんだけど、まよっちゃって。気が付いたらここに…。ふがいない。」 〚あー、そういうことか。ここ、複雑だもん。〛 何でここに来たって聞かれて、死ぬためですって答えるわけにはいかないもんね。答えたところでなんになるのか。心配でもしてほしいの??目立ちたいの??気持ち悪い。死にたいんなら一人で死んどけよ。誰かに相談して、その人の時間けづる必要ない。巻き込まなくていい。自重しろ。 「ねねね、さっきのピアノ、すごかったね?!」 〚っ、ありがと。ちょっと、うれしいかも…。〛 「ほんと!?よかった。嫌じゃなかった??」 〚え、うん。褒められて嫌な人なんていないでしょ。〛 「ふふっ、確かに。」 いいえ。います。ここに。褒められるのは好きじゃない。うれしい。うれしいけど、自分はそこまですごくないし、期待しないでほしい。って思っちゃうから。 「ねーねー、ゆいこそ何でこんなところにいるの??もしかして、ここ、ゆいの家??ねね、何歳?もしかして間同級生だったりして!」 〚えっと、ここ、は、おばあちゃんの家。ずっと前に死んじゃったんだけど、ここ、好きだから。あ、あと、14歳。な、夏樹、は?〛 「へー、おばあちゃんの家なんだ。いいね!ここ。ちなみに私は13才!え、まって、そっか、先輩か…。敬語、使ったほうがいいですかね!?!?」 〚あ、いや、いいよ。気にしないし。〛 「そっかぁー。よかったぁ。ありがとっ!!!ねーねー、ゆいー?友達になっていただけたりしちゃったりしませんか。」 〚友達??いいよ、別に。〛 「まじ!?ありがとーーー!よろしくね。」 〚うん。こちらこそ。〛 そのあと、いろいろ話を続けて、毎週日曜ここにきてピアノを弾いていることや、どこ中に通ってるか、家はどこらへんか、勉強は得意か、とか話してその日ほ二人とも家に帰ることになった。 家へ帰ってからは、何事もなかったかのようにご飯を食べ、風呂に入り、寝床に着く。さっきまで死ぬ気満々で家出していったのに、数時間後には変わらず家にいる。寝床に着くも、なかなか眠れず、由のことを考え始める。 実を言うと、由の顔と体格、性格、声。結構全部ドンピシャでタイプだ。かわいいし、かっこいい。でも、もちろん告る気なんてない。当たり前だ。俺からは絶対に告らない。自分が誰かを好きになるなんてあり得ないし、もし、あり得たとしても、自分となんか付き合ってくれないに決まってる。もし、万が一付き合えたとしても、自分が相手の限り、相手はきっと幸せじゃないから、この気持ちは押し殺すしかない。自分のせいで誰かが不幸になるなんて、それこそ死刑案件だ。 つらつらと御託を並べ、自分の気持ちにピタリと封をする。それからゆっくりと眠りにつく。
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