「     」上巻

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翌日、俺は珍しく早起をきして、昨日のあの場所に向かう。俺は昨日の夜、風呂にはいっているときに、大変なことに気が付いてしまった。ゆいと、次にいつ会うか、約束してなかった。ゆいとはもっと仲良くなりたいと思っていたし、話したかった。だから今日はダメもとで、あの場所に向かおうとしている。 由なら、俺の素で、話せるんじゃないかと、思っていたし。 俺の、心における性別は定かじゃない。だからなのか、普通に女の子も好きになるし、男の子も好きになる。でも、割合的に、四捨五入すると、心における性別は男子だ。のくせに、四捨五入した恋愛対象は男子。自分でも、つくづくおかしいな。と感じる。 このことに気が付てから、俺は、自分いろいろとおかしいんだと、自覚し始めた。一般常識の認識があいまいで、性癖も多分結構マニアックで、人の恐怖した顔がかわいくて仕方が無かったり、過食症だったり、時間が守れなかったり、頭は悪いくせにIQは高かったり、まだ中学生のくせに働きたくて仕方が無かったり、障害持ちだったり、嘘をすぐついておまけに嘘が上手だったり。 将来一般社会で生きていけなくなるだろうな、と、自他ともに自覚するくらいには、普通からかけ離れていると思う。きっと母は、こんな俺に嫌気がさしたのだろう。最近では、弟を溺愛してやまない。俺がすれば怒るのに、弟がしても怒らない。僕を罵るときはいつも弟も母と一緒に罵る。家庭内での共闘、裏切りは当たり前。誰も信じないし、期待しない。そんな自分が、素のまま話したらどうなるか、分かったこっちゃない。試す相手がいないから、素の自分を出したことはない。当たり前かもしれない。当たり前じゃない、のか…?わからないけれど、自分自身も素の自分を知らない、なんて、これ以上怖いことはないかもしれない。いや、もしかすると、人に合わせるのが自分の素で、今だって素を出しているのかもしれない。 でも、こんな俺も人間なわけで、しんどい時もある。話を聞いてほしい時も。泣きたいときも。でも、話を聞いてくれる人もいないし、きっと後からめんどくさいことになるから、話す気もない。第一、こんなごちゃごちゃしたこと、きちんと話せる自信がない。 でも、由になら、素で、話せるかもしれない。と感じてしまったのはなぜだろうか。話さないほうがいいもかもしれない。でも、もう、しんどくて、死んでしまいたい。でも生きてたい。話したい。楽になりたい。 俺は、考えるのに疲れて、もうどうとでもなれ、と、昨日のあの場所に向かうのだった。
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