「     」上巻

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無知ほど怖いものはない。 己自身を知らないなんて、もっての外。自分を知ることで、他人を知ることができる。自分を知ることで、自分も、他人もだますことが容易になる。これらのことから、無知、というのは、人間社会における「死」を意味するに等しいということがわかる。 そう、ここは人間社会とは程遠い山奥であるが、、もう、死んでしまいそうだ…。本当に、無知とは恐ろしい。今この時、やっと、言葉の意味を身をもって体験した。 だがこの状況、何というのだろうか。 うーん、これはいわゆる、「迷子」という奴なのではないか??? 昨日、見知らぬ土地で、あの古民家にたどり着けたのは奇跡といえよう。何も調べず、スマホも持たず、こんな山奥にまで来て遭難せず帰れたことも奇跡にに等しい。道も分からぬまま、こんな山奥足を踏み入れれば、今日こそ遭難することぐらい目に見えていたはずだ。 俺は、馬鹿なのか・・・。? いや、自分は馬鹿と分かっている馬鹿は馬鹿ではなくて、自分は賢いと思っている馬鹿こそ真の馬鹿だ。ってことは、俺は、馬鹿じゃない・・・?あれ、?でも、馬鹿って自覚してるってことは、馬鹿で、、でも、馬鹿じゃなくて、あれ?? あーー、でも、馬鹿ってわかってんのに馬鹿を直そうとしなかったら、それこそ本物のバカだ。ってことは、俺は馬鹿じゃない。はい。オッケー、ばっちぐー。 何か奇跡が起こらないかと、月も見えない晴天の空を見上げ、流れ星を探すかのように天を仰ぐ。天地がひっくりかえった景色を見渡すと、自分の後ろに、水と木と空以外の物が映った。何事か、と思い、首の向きを本来向くべき角度へ戻し、そちらを見る。景色と同化し見えにくかったが、意識すれば、そこにきちんと存在している。昨日見た古民家の屋根だ。 昨日もだが、こんなところで都合よく見つかるものなのか?と、疑問に思うも、その疑問の答えはすぐに見つかることとなる。 その古民家の屋根めがけて移動する。すると、頂上のらへんに、古民家の全貌が見えてくる。いや、古民家というよりかは、屋敷、といったほうが近いかもしれない。昨日は気が付かなかったが、あの屋敷、どこかのおっきめの公園の位は余裕である。その風格はさながら、頂点に君臨する武士のようで、他とは何かが違う、独特の雰囲気を醸し出している。 あー、そう。ちょうど昨日聞いた、ピアノの旋律のような…。 屋敷に向かって歩き続ける。屋敷にはもう、とっくの前についているが、昨日の場所がなかなか見つけられず、迷路のようだ。 小鳥のさえずりに、どこか遠くで滝が落ちる音。風に揺られる緑の音。心地よい自然の恵みに耳を澄ます。昨日のあの音が聞こえないかと、無意識的に。
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