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目を開けると水の中にいた。下を見ると暗黒の世界が俺を見上げていて、上を見ると微かな光が俺を見下しているので、ここが海か湖か何かの水の中だということを認識する。寒くも暑くもなく、心地も可もなく不可もない。そんな中途半端な場所で俺は漂っていた。
生きているわけでも死んでいるわけでもない。俺を形容するのにわりとしっくりきてくだらなすぎて、力なく笑ってみた。
辺りを見回すと、遠くの方で俺と同じように漂っている人を見つけた。人の形をしていることしか分からなかったのに、それがジルだとなぜか確信を持って、俺は彼女のもとに近づいていった。この距離がもどかしく、早くジルの手を取りたくて、そうじゃないと息が出来なくなるような気がして俺は焦っていた。
それに気付いたのか、俺を認識したジルは面白そうに笑って、自分は動かず手だけ俺の方へ伸ばした。いつも見ていた白い手だった。
俺はその手を取り、ジルを抱きしめたけれど、体温も触れている感覚も何もなく、腕の中にジルがいないような気がして酷く不安になった。
「私もあなたも、お互いがいないと生きていけない。なんて可哀想で、愛しいのでしょうね」
ジルは妖艶に笑った。この笑いをする時は俺のことを馬鹿にしている時だと、高校生の頃に気付いた。
そうやって笑われる度に、俺はミキサーか何かで自分の中のものを全部掻き回されているような気になった。そして、ドロっとした液体にされて、自分の中にあるものがこれだけ汚いものなのだと思い知らされる。
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