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2.婚約者からの暴言【婚約者のためのダイエット】
うららかな春の陽気な日差しがやさしくサンルームを照らしている中で二組の家族が優雅にお茶をしていた時にそれは起こりました。
「はぁ!?この僕がこんな『子豚』と将来結婚するだって!?冗談だろ!?」
部屋の温度が三度ほど低くなった事を肌で感じました。
始まりは、将来の夫として紹介された公爵子息のこの言葉が切っ掛けです。私は最初から「お見合い」として参加していたのですが婚約者様は何も聞かされていなかった御様子。寝耳に水の話に激昂なさいました。
私の名前はバーバラ・ロジェス。一般的な伯爵家の娘です。大して、婚約する方は遥か格上の公爵家の子息、チャールズ・スコット様。
何故、公爵家と伯爵家が婚約する事になったのかは分かりません。私も詳しい話は聞かされていないのです。ただ、お父様が「宰相」という高い地位に就いていますから、何かしら政治的配慮がなされた結果だと解釈しております。
「チャールズ!バーバラ嬢に失礼だろ!」
「父上!? 何言ってるんですか!息子の将来の嫁がこんな『白豚』でいいと思ってるんですか?!」
「~~~~~~っ!今すぐバーバラ嬢に謝りなさい!」
「嫌ですよ!本当の事じゃないですか!」
「かりにも婚約者の令嬢に言うべきことではない!」
「僕の将来の相手ですよ?こんな肥え太った『豚女』と一生を共にしろと?」
「いい加減にしないか!」
突如、始まった親子喧嘩。
「本当の事を言って何が悪いんですか!父上だって本当は同じことを思ってるんでしょう?『白豚』だって!」
「くっ~~~~~~~~~~っ」
「だから…<<バンッ!!!>>……」
父親のスコット公爵が御子息の頭を思いっきり叩きました。その衝撃で私の未来の旦那様はふっ飛びました。まるで小説のようです。人って飛ぶんですね。
「ち……<<ドカッ!>>……どう…<<ドカッドカッドカッ!!!>>…やめ……」
スコット公爵は無言で殴り倒しております。父親による息子の教育はやはり拳なのですね。私には男兄弟がいないので分かりかねますが書物ではそのような内容が記載されておりました。このような処で実証実験が行われようとは感慨深いものがありますね。
ドカッドカッドカッ!
鉄拳教育を鑑賞していると、いつの間にか隣に来ていたお母様が涙ぐみながら私の左手を握りしめており、右横にいるお父様は「クソガキが……」と呟いていました。更には「クズが」「顔だけの分際で」「こちらが下手にでれば……」と、とてもお父様とは思えない言葉が聞こえました。
的確な表現でしょうが、失礼極まりない発言。
小さなお声でだったためスコット公爵親子には聞こえていないようですが。
ブチッ!ブチブチブチッ!
「……ぐすっ」
漸く、親子喧嘩が終わったようです。
スコット公爵は涙ぐんでいるチャールズ様の襟首を掴みながら私達に振り返りました。
「大変、見苦しいものを見せてしまい、本当に申し訳ない」
伯爵家の私たちに謝る公爵家親子。ただしスコット公爵の左手には大量の金の糸が握られております。糸が短くて残念です。もっと長ければ刺繍に使用できましたのに。きっと素晴らしく豪華な花模様が作れた事でしょう。今度、婚約者様に髪を長く伸ばすよう、進言してみようかしら?
未来の旦那様のお顔は、父親による愛の拳によってボコボコにされておりました。バラ色の頬が赤く腫れあがり、輝く黄金の髪はボロボロで一部禿げていました。顔面の穴という穴から大量の汗をかいたようで、折角の美貌が無惨なものになっておりました。恐らく、御子息の唯一の長所だったでしょうに。
「バーバラ嬢、大変申し訳ない。このバカ息子にはきつく言い聞かせておく。どうか気を悪くしないでほしい」
息子の頭を押さえつけながら、自らも頭を下げて謝るスコット公爵は紳士です。格上の公爵家当主が頭を下げてまで謝られたからには、格下の伯爵家が許さない訳にはいきません。御子息の訴えも虚しく、私たちは婚約者に相成りました。
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