33.小さな淑女たち

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33.小さな淑女たち

   お茶会は、大人と子供で別れて互いに交流を深めるのが一般的です。  私も当然と言いますか、お母様と離れることになりました。少々渋っていたお母様を説得させるのは骨が折れました。  ですが、お母様の心配も分かります。  大人たちは1階のサロン、子供達は2階の子供部屋の一角で行われますからね。今回の茶会が『各家の令嬢たちの交流会』を目的としておりますから仕方のないことです。とはいうものの、他の令嬢たちと、どのように接すればいいのでしょう?よくよく考えて見れば同年代の女子が身近にいません。どう参加して、どう入っていけばいいのか分からないのです。  まあ、令嬢だらけの茶会ですから、円形のテーブルを囲って会話を楽しむのが基本ですから、私一人が喋らなくとも会話は進んでいきます。 「あ、あ……の」  あら?  気のせいかしら? 「あ、あの……」  どうやら、気のせいではなく、少女の声が聞こえます。  あまりにも小声なので分かりませんでしたわ。 「……あの」  誰かに話しかけようとしているみたいですね。もう少し大きい声で言わないと相手には伝わらないのではないかしら?それでも、一生懸命に相手に声掛けしようとしている努力は素晴らしいです。 「あの!!!」  ガタン!  椅子が倒れた音と共に一人の少女が立ち上がり、 「バーバラ様!!!」  なんと、私の名前を声高に叫んだのです。  突然の大声に、他の令嬢達も立ち上がった少女を呆気に見ています。 「なんでしょう。ラビニア様」   「! わ、私の名前をご存知なのですか!」   「勿論です」   「こ、光栄です。バ、バーバラ様に……な、名前を、お、憶えて、く、くださっていたなんて」  子爵家のラビニア様。  緊張しているのでしょうか?  スムーズに言葉が出てこないようです。 「う、嬉しいです」  頬をピンク色に染めていて、実に可愛らしいですわ。  随分、感激してくれているようです。  名前を言ったからですか?何故でしょう?貴族の方々の名前と階級と家族構成を記憶しておくのは、最低限の淑女の嗜みのはず。これがお母様やミレニウス先生ならば、更に、縁戚関係や仕事関係なども記憶されているでしょうが、生憎、私程度の頭ではこれが精いっぱいなのです。お許しになって。 「ラビニア様は、私に、なにやらお話があるようですね。よろしければ、そちらの方でお話いたしませんか?こちらは人が多いですから、ゆっくり話すことも出来ませんもの」  取り合えず助け船は必要ですわ。まさか倒れた椅子に座れなど言えません。  給仕は何処に行ったのですか!  普通なら、ここで給仕が素早く椅子を元に戻し、何事も無かったかのようにパフォーマンスをしなければならないものを! 「は、はい!」  何故かラビニア様は頬を赤らめて、他の令嬢方は顔を青くなさっています。  もしや、ラビニア様以外の方は具合が悪いのではないでしょうか?これは益々、場所を移動しなければなりませんね。 「では、参りましょう」  私の後ろをひょこひょことついてくるラビニア様はとても可愛らしいです。カル鴨の親になった気分ですわ!私には兄弟がいませんが、妹がいたらこんな感じなのかしら?ラビニア様のような可愛らしい妹なら今からでも欲しいですわ。私、絶対可愛がります。
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