42.王立大学の学長side

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42.王立大学の学長side

   卒業式というのは、何時まで経っても感慨深いものだ。  生徒達が巣立ってゆく姿を見るにつけ、想いを馳せるのを止められない。  長いようで短い期間だ。  大学を卒業して、院に進学する者もいるが、まだまだ少数派だ。優秀な人材が国のために活躍する姿を見るのは誇らしいが、やはり、大学に残って勉学に励んで欲しいという欲もある。いやはや、私自身が欲が深すぎるからだろうか。自分でも無茶苦茶な事を言っている自覚はある。  特に、この数年は人材が豊富だった。  優秀でありながら()()()()が多かった。  王立大学に通う生徒は皆優秀な者達だ。  選ばれたエリートという自負があり、プライドが高い。それは貴族や平民の身分問わずだった。  だが、一人の青年のお陰で凝り固まった権威主義的な人間が減った。  ラウル。  貧民街出身のため苗字がない。  王立大学が誇る天才だ。  オール満点で入学し、その後も、トップの成績を独走している男。どんなに優れた人物なのかと想像するものだが、入学した二年ほどは大変な問題児でもあった。女癖の悪さには驚いた。  しかし、それもロジェス伯爵令嬢の専属家庭教師になって以来、鳴りを潜めた。一時は妙な噂が蔓延していたせいか随分と大人しくなった。大半の者達が嘘と分かった上で面白おかしく話していただけだが、本人にとっては良い経験になっただろう。悪い奴ではないのだが、如何せん、女にだらしなさ過ぎたのが敗因だ。  女の敵であったし、同時に、男の敵でもあった。  自分が惚れた女を弄ばれて怒らない男はいないし、自分の姉や妹に手を出されて喜ぶ者はいない。手を出しておいて捨て去る様な男なら尚更だ。そういった配慮が出来ていなかったからな。妬まれ、恨まれるのも仕方ない。これも人生の勉強だと思うしかあるまい。  そんな問題児であったラウルは、卒業後、地方に出向することが決まっている。てっきり、王都務めを希望するとばかり思っていたが……どうやら本格的に出世競争の荒波に飛び込むようだ。  ラウルは三年後に王都に戻ってくるだろう。  その時、何処に配属されるのかが今から楽しみだ。  卒業式典にはロジェス伯爵と御息女が来賓として臨席されている。  ロジェス伯爵に目を掛けられているラウルのことだ。  悪いようになるまい。  もっとも、御息女の家庭教師であったからといって贔屓なさる方ではない。  実力主義だ。  そんなロジェス伯爵一家と四年もの間、家庭教師の域を超えたまるで家族のように近しく過ごしていたためか、ラウルの意識も変わったのだろう。  勿論、いい方向に進んだ。  なに、三年など早いものだ。  彼が戻ってきたら祝いの言葉を送ろう!
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