46.モラトリアム 【婚約者のための恋愛講座】

1/1
前へ
/56ページ
次へ

46.モラトリアム 【婚約者のための恋愛講座】

   困った事が起こりました。  婚約者様がどうやら浮気をなさっているようなのです。  私は見ていないのですが、複数の友人の目撃情報がありますから、ただの噂と考える訳にはいきません。真偽のほどを確かめるため、婚約者様に訊ねることにしたのです。  すると、 「それがどうかしたか?」  なんとお認めになられたのです。 「ただの浮気だ。そんな些細なことを聞きに来たのか?」  しかも堂々と『浮気』と宣言される始末です。  普通は隠すものではないでしょうか? 「貴族なら当たり前だ」 「私たちは婚約者同士ですよ?」 「婚姻前だろ?お前とは()()()()()()んだ、一々文句を言ってくるなよ!」 「これは裏切り行為に値しますよ?」 「おいおいおい!なにを真面目に言ってるんだ。結婚したら嫌でもお前と一緒にいないといけないんだぞ?学生の間だけでも自由にさせてくれよ!」 「自由ですか?」 「そうだ!いいか、学生というのは、期間限定の自由な時間だ。学生の間だけでも満喫したいもんだろ?恋に遊びに、今だけしか味わえない青春を謳歌すべきだ!」 「確かに、()()()()ではあります」 「そうだろ!なんだったらお前の『恋人』を作れ!恋は良いぞ!新しい自分を発見できる」 「は…あ」 「あ!もうこんな時間か!おい!お前!納得したなら、さっさと帰れ!今からデートに行かないといけないんだ。暇なお前と違って忙しいんだ!」  婚約者様は慌ただしく扉を開けて出て行かれました。  それにしても、まさか婚約者様が浮気を推奨なさる側の貴族だったとは…意外です。御父上の公爵様には浮ついた噂のない方でしたから。  お顔が頗る良い婚約者様なら『恋人候補』が列をなす事でしょう。  それにしても『恋』ですか。  あら?  そう言えば、私は初恋もまだでした。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

326人が本棚に入れています
本棚に追加