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52.恋愛その四~神話の夫婦~
――イザナギとイザナミ――
「同じように妻を亡くして、妻を取り戻しに黄泉の国に行って、同じように約束を違えたというのに、イザナギは妻をすっぱりと諦め、イザナミも夫に未練なし。素晴らしいですわ」
「お嬢様、それは違います!夫であるイザナギは黄泉の国で変わり果てた妻イザナミの姿を見て卒倒して逃げてしまったのが原因です!」
「それこそ夫婦の潔さの結晶ではありませんか!」
「どこがです!?」
「イザナギは妻を何よりも愛して、妻が命がけで産んだ子供の存在すらいなかった事にしたほどです。あまりに恋し過ぎて黄泉の国まで迎えに行って『何とかして現世に戻れないか?』と懇願しましたが、イザナミに『黄泉の国の神の許しを得られるか交渉致します。その間、決してこちら側を見ないでください』と警告?忠告?をしたにも拘わらず、イザナギはこちら側を見てしまったために、美しかったイザナミの姿が黄泉の国独特のバケモノと化していた事に驚いて、素早く現世に逃げ帰りましたわ。ご丁寧に、現世と黄泉を結ぶ境界線を封印してしまうのですから。天晴なほどに妻の美しさのみを愛していた事が分かりますわ。もっとも、そんな仕打ちをされて怒らない妻はいませんから、当然、イザナミは『お前の国の人間を一日1000人殺してやる』と叫ぶほどの怒りよう。まあ、イザナギも『ならば、人間が一日1500人生まれるようにする』と宣言なさったのですから、神というのは凄まじいですわ。結局、その後、夫婦は喧嘩別れのまま。あら?よく考えますと、これって『離婚』じゃありません?素晴らしいですわ!」
「お嬢様…素晴らしい処など全く見当たらないのですが…」
「お互いにダメだと思ったら即離婚。素晴らしい判断力です!どこその小説や神話のようにグチグチせずにスパっと切り捨てる処がなお良いですわ!し・か・も。イザナミはいつの間にか黄泉の女王に君臨しているんですよ!素晴らしいバイタリティーの持ち主です!男に頼ることなく己の力にみで這い上がる。世の離婚女性の鏡ですわね!」
あら?
ミリーが黙ってしまいましたわ。
どうしたのでしょう?
こういう話はあまり好きじゃないのかしら?
困りましたわ。
私はどちらかというとグズグズ過去を引きずるよりも未来に向かって進む話の方が好ましいのですが…仕方ありません。こういうのは好みですもの。
そうですわ!
お父様に『イザナギとイザナミ』の話を聞かせて差し上げましょう!
きっと、ご理解くださいます!
「なるほど。一理ある話だ。周辺諸国に比べて我が国は女性の進出が遅れている」
「はい!」
「女性の社会進出を『はしたない』と唱える層が多いのも事実だが何時までも頭の固い考えは我が国の経済の停滞を招くことに繋がりかねない」
「はい!」
「なにしろ女性の王位継承権もない、爵位授与もない状態だ。他国が次々と女性の継承権を認めている昨今、我が国がそれに取り残されるは許しがたい」
「はい!」
「バーバラ!よくぞ教えてくれた!時代は変わる!これからは女性の時代だ!!!」
「はい!!!」
私がお父様に『イザナキとイザナミ』の神話をお話しした同じ月、女性の権利についての議題が話しあわれたのです。
それは、我が国の根本を変える法案であったそうです。ただ、反対意見が多く直ぐには無理そうでしたが、ここで諦めないのがお父様です。反対者にある条件を飲ませたそうです。その条件により、法案は数年もせずに施行される事になりました。
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