この子、誰?

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「この子、誰?」 「ああ、隣のこいつは……」 「そうじゃなくて」  白い指が写真の片隅を指差す。俺と彼女は、リビングのソファで寛ぎながら、写真を眺めていた。  なんて事のない、卒業式の集合写真。  みんなが並んで座っている何の変哲もないアレへ、彼女は怪訝な眼差しを向けている。 「……? 何のこと?」  俺の眼には、体育館と、クラスメイト達の笑顔以外は何も映っていなかった。 「いや、写ってるやん。壇からちょっと離れた所に、男の子が」 「え? そんなん見えないけど。汚れか何かの見間違いだろ」  目を凝らしてみても、やはり、片隅には何も写っていなかった。  その後、俺は就職し、彼女と結婚して、リビングで昔デートした時の写真を眺めていた時の事。 「あれ?」 「どしたん?」 「前に話した子」 「……なんだっけ?」 「卒業式の子」 「何年前の話だよ」  笑いが俺の口をついて出たが、彼女の顔はいつかと同じように、怪訝そうだった。 「また写ってるわ……アンタの隣、顔をじっと見てる」 「どれどれ」  写真を見ても、何も写っていない。デートスポットと俺たち以外は。  ……からかってるのか? と思ったが、すぐに思い直す。 時間が経ちすぎているし、彼女はそんな妙な嫌がらせをする奴じゃない。  目を細めたり角度を変えて覗き込んだりしてみても、絵の中で俺達二人が笑っているだけだ。何をやっても、それは変わらない。 「ふざけないでよ」  やべやべ、怒らせてしまった。 「ごめんごめんて」 「ったく……」  その後、俺と彼女の間に子供が生まれた。  元気な男の子、俺は可愛くて仕方がないが、成長するにつれ、彼女はあまり子供と顔を合わせなくなった。  ある日の深夜。  子供が寝静まり、リビングで酒を飲んでいた時、彼女がテーブルの向い側に座った。  花金の深夜だというのに、顔は固い。 「そういえば……」 「なんだよ」 「アンタが通ってた学校、生徒が自殺したんだってね」 「ああ、そんな事もあった気がするな。でも大昔の話だろ?」 「もしかしてアンタ、関わってたんじゃないの」 「知らね」  俺交友関係広かったし。自分で言うのもなんだけど。  友達と遊んだりからかったりしたことはあったけどさ。何の関係があるのか解らないし、そんなのは誰でもやっている。 「あと、写真の話だけど……あの子、写真の子に」 「何年前だっつの。意味解んねーし」  酒のせいもあり、俺は笑った。  その後、彼女は俺の元から去っていった。  何故だかは解らなかった。  子供は相変わらずかわいい。  大切に育てていこう。
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